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第1話 プロローグ「家族会議」

第1話 プロローグ「家族会議」

「ちえ、お前が引き受けたらどうだ」
兄貴のやつったら、なんて無責任なんだ。

「そうね、ちえちゃんがやるのが良いかも知れないわね。まさとさんは、研修医でまだ2年は家に戻れないし、私もリューマチ気味で毎日外に出るわけにはいかないのよ」
えー。母殿それはないじゃん。衝撃が、私の頭の中を走った。
おでぶで、気さくで、優しくて、大好きだった父殿が、突然の脳出血で亡くなったのは去年の暮れ。頭の中が真っ白になった。家の中は突然真っ暗。日が暮れてもても誰も外灯を付けに行こうとしないから、中学時代同級のさっちゃんからも「正月はどこか外国に行ったの?いつ通っても灯り、見えなかったよ」と言われる始末。
そんな我が家にも、桜の花も咲き終え、新緑が町にあふれる頃から、家族みんなの暗い気持ちも少しずつ変わり、平常心が戻り始めた日の出来事だ。

私は山本ちえ。都内のカソリック系の女子高に通う17歳。将来は素敵な旦那様について、フランスかイタリアあたりでの海外生活が夢。それが父殿の作った「山本産業」の社長に、家族会議でまったく突然に指名されてしまった。
山本産業は東京の恵比寿に本社のある中規模の住宅機材メーカー。父殿が大手の鉄鋼メーカーを25年前にスピンアウトして作った会社で、神奈川県の茅ヶ崎と愛知県の岡崎に工場がある。
会社の株の70%は父殿と家族3人の名義だ。母殿は一応、以前から監査役ということになっているが、若い時からの持病のリューマチで、元気な時はまったく普通の生活だけど、具体が悪くなると何週間も家で寝たきりになる。兄のまさとさんは、自治医大を卒業した医者の卵で27歳。今は研修医として新潟の公立病院に勤務している。家に戻ってくるのは月に1~2回くらい。あと家族と言えば、ちえの部屋を棲家にしている黒猫のワンタくらい。まだまだ遊びたいことが一杯あるって言うのに。昼は高校生、放課後と土曜は社長殿という、大変な生活が始まりそう。

部屋に戻ると黒猫のワンタがいつもの様にじゃれついてきた。
「ワンタどうしよう。ちえ本当に社長様になってしまうのよ。大丈夫かしら」
「大丈夫かって?それはとても心配だニャー」
「でも、大好きな父殿の作った会社よ。ちえとにかく頑張るわ。ワンタも応援するのよ。判ったわね」

「こりゃ大変だミャー。ワンタはもう寝るニャー」

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